科学的根拠とはどんなもの? (2)科学的根拠としてのランク

2014/06/17

栄養学

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前回の記事の続きになります。
前回では、科学的根拠の説明よりも、メディアリテラシー的な事を多く書きました。
今回の記事では、具体的に、科学的根拠にどのようなものがあるか書いていこうと思います。


■科学的根拠にはどのようなものがあるか

科学的根拠と一言にいっても実は色々あり、その質の高さも違います。
研究方法には大きく分けて二つあるので紹介しようと思います。

・介入研究
→ランダム化比較試験
→非ランダム化比較試験


・観察研究
→コホート研究
→症例対照研究
→横断研究
→生態学的研究


また、研究結果を統合して検討した、
システマティック・レビュー(系統的レビュー)
メタアナリシス
というものもあります。

Minds 診療ガイドライン作成の手引きによると、科学的根拠のレベルは以下のようになっています。

無題



■介入研究について

介入研究とは、対象者に対して治療や投薬、食事指導などの処置を施し、
その効果を見る研究方法をいいます。
主に、要因と結果(タバコで肺がんが増える等)の関連性を検討することを目的としています。

介入試験は容易ではなく、コストがかかる上その方法も非常に複雑です。
様々な交絡因子がある中、それを排除し正しい結果を導き出さなければなりません。

介入研究を行う際には、介入群と対照群を分け比較する必要があります。
なぜなら、介入したという事実だけで、(例えば食事指導をしただとか、投薬をしただとか)結果に影響を与えるからです。
そして、この介入群と対照群を分ける際に、ランダムに分けたものをランダム化比較試験と呼びます。

このランダム化比較試験が最も質の高い研究とされています。

介入群と対照群を分ける際に、ランダムに分けていないものを非ランダム化比較試験と呼びますが、
研究の質としてはランダム化比較試験よりもやや落ちると言われています。




■観察研究について

観察研究とは、介入研究とは違い、今まで得られた統計データを合わせて研究したり、
ある集団を追跡してどんな病気が発生するかを見たりする研究です。

観察研究は症例対照研究、コホート研究、生態学的研究、横断研究と4つに分けることができます。

症例対照研究
症例対照研究とは、病気にかかっている群(症例)とかかっていない群(対照)に分け、
その過去の状況を調べるような研究をいいます(後ろ向き研究

例えばタバコと肺がんの関係を調べる場合、肺がんを罹患した人と健康な人の過去の喫煙状況を聞き、
比較して研究します。

この研究では、時間やコストがかからない事がメリットとして挙げられますが、バイアスがかかりやすいという
デメリット
もあります。

バイアスを今の例で考えてみましょう。
タバコと肺がんに関連があるというのは、多くの人が知っている事実です。
その場合、肺がんを罹患した人が、過去の喫煙状況を考えた時に、
そういえば小さい頃に親戚のおじさんに吸わされたことがあったなあ。」
等と小さい事でも思い出すかもしれません。
それに対し、健康である群は、自身が健康である事からそのような事はすっかりと忘れ去っているかもしれません。
他にも質問の仕方によって結果が変わる等、結果に影響を与える事がたくさん考えられ、注意が必要です。

コホート研究
コホート研究とは、前向き研究とも呼ばれ、上記の症例対照研究とは逆のパターンで行います。
同じ例でいくと、タバコと肺がんの関係を調べるために、ある集団のタバコを吸っている人と吸っていない人を追跡し、
タバコを吸っている人がどのような病気に罹患するかを調べます。

症例対照研究と違い、誤った結果を得にくく、罹患率などを計算することができますが、
莫大な時間とコストがかかります。

横断研究
横断研究とは、ある集団の原因と結果を、同時に観察するような研究です。
例えば、とある大学の早食いと肥満の関係をアンケート調査などにより検討するとします。

この場合、早食いと肥満に関係があったとしても、「早食いの人が太るのか」、
太っている人が早食いになりやすいのか」はわかりません。

他にも、肥満と血中脂質の値を調べたとして、
肥満の人が血中脂質が上がるのか、血中脂質が高いと肥満になりやすいのかわかりません。

横断研究は手軽に行えますが、上記のように、原因と結果、どちらが先に起きたのか特定しにくいのがデメリットとなります。

生態学的研究
生態学的研究とは、集団ごとの原因と結果を観察するような研究です。
例えば有名なものに、ワインと心筋梗塞の関係があります。

心筋梗塞が少ないA国では、ワインの消費量が多く、
心筋梗塞の多いB国ではワインの消費量が少ないという統計結果が出たとします。
果たしてこの場合、ワインは心筋梗塞に良いと言えるのでしょうか?

答えはNoです。生態学的研究は、仮説の提唱や設定に使われるものであり、仮説の証明に使われるものではありません。

生態学的研究では、他の研究以上に様々な交絡因子が絡んできます。

例えば上記の例でいくと、A国ではB国に比べ野菜の摂取量が少ないかもしれないし、
B国では肉類、脂肪の摂取量がとても多いかもしれないかもしれません。
そして、そういった他の食事の特徴が、心筋梗塞に影響を与えているのかもしれません。
このように、考えるべき交絡因子が多く、一概にそうとは言えないことも多々あります。


また、この生態学的研究というのはメディアでミスリードさせるためによく使われる研究です。

生態学的研究を使えば、色々な食品を健康食品に仕立て上げる事ができます。
例えばガンの罹患率が低い地域の摂取食品を見ることで、摂取量の多い食品全てを、抗癌作用がある、等と言えてしまいます。
(ガンの罹患率の低い地域では、製品○○の消費量が多かった。よって製品○○はガン予防に効果があるかもしれない、等)

国と国、地域と地域の比較では、様々な交絡因子が関係するため注意が必要です。





■交絡因子とは

何度か交絡因子という言葉を使ったので説明しておこうと思います。
交絡因子とは少し難しい言葉ですが、例えば食塩と血圧の関連を調べることを考えます。
食塩と血圧は、食塩の摂取量が増えるほど血圧が上がると考えられます。
しかし交絡因子として考えられるものに、年齢があります。

年齢が上がるにつれて、味覚が鈍り食塩の摂取量が増加することが考えられます。
そして、年齢は上がるにつれて血圧が上がることが考えられます。

この場合、食塩と血圧を調べたつもりでも、血圧が高くなっているのが食塩のせいなのか、年齢のせいなのかわからなくなってしまいます。
このようなものを交絡因子と呼び、交絡因子などの要因を排除している研究が良い研究と言えるでしょう。



■システマティックレビュー/メタアナリシスとは

システマティックレビューとメタアナリシスは、違うものですが一般の方では同じものとして考えて良いと思います。

簡単に言ってしまえば、今まで紹介してきたような研究から、質の良い研究をまとめて検討したものです。
例えば、カルシウムの摂取は骨に有効かどうかを検討しようとします。

その際に、論文検索サイトのPubMedなどを使い、質の良い研究で、カルシウムと骨に関係した研究を全て集めます。
そして肯定的な意見がいくつか、否定的な意見がいくつかを見るものです。

正しい方法で行われたシステマティックレビュー及びメタアナリシスは、科学的根拠としてはもっともレベルの高いものになります。



■科学的根拠があっても注意が必要

前回の記事では、情報元や科学的根拠の無い情報について注意が必要ということを書きましたが、
科学的根拠があっても注意が必要な場合があります。

例えば、野菜がガンを予防するかどうかという質の良い論文が世界に40あったとします。
そして、野菜がガンを予防するという論文が35、むしろガンを促進させるという論文が5あったとします。

ここで、野菜はガンを促進させるという記事を書きたい記者がいたら、どうなるでしょう。

野菜がガンを予防するという論文35を無視し、ガンを促進させるという結果が出た論文5を引用し、
科学的根拠があるように見せかけた記事を作成することができてしまいます


研究自体の質は高くても、使い方次第では誤った方向に導く事ができてしまうため、注意が必要です。

また、質の低い研究を使ってミスリードさせたり、論文ではなく学会発表されたものを科学的根拠として紹介することもあります
質の低い研究とはつまり、調査方法が悪いだとか、調査者のバイアスがあるとか、交絡因子が除去できていないとか、
そういったものです。

学会発表は、もちろん価値あるものもあるのですが、論文と違い客観的な評価を受けていません。
論文ではその雑誌の査読者により、掲載に値するかどうかが判断されます。
この時に、研究方法の誤りが無いか等が見極められるのです。

学会発表ではそのような工程がないために、論文に比べ科学的根拠としての価値は低めになります。



■まとめ

さて、これまで書いてきたように、情報の取捨選択とは実に難しいものです。
何が正しくて何が間違いなのか、自身で判断するためにはその専門分野の知識や、
統計学の知識が必要な上、それを自分で調べて検討する能力まで必要になります。

正直なところ、一般の方がここまでするのは困難だと思います。

では何を信じれば良いかというと、前回の記事に書いたように、厚生労働省の報告や、
各種疾患のガイドライン、国立健康栄養研究所などの公的機関です。

私が知る限り、これらは科学的根拠に基づいて書かれています。

まあ、知識として蓄えておく分には、間違っていても大事にはならないので、特に気にする必要も無いかもしれません。
ただし、よくわからないサプリメントの摂取や怪しげな健康食品などは、被害を及ぼす可能性もあるため、
上記のような機関や信頼できる医師や管理栄養士に相談するようにすると良いでしょう


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自己紹介


とっぽ
高校で調理師科を卒業し、調理師免許を取得。管理栄養士学科を卒業し、管理栄養士免許・栄養教諭一種免許を取得しました。現在は都内某所の施設に勤務しています!どうぞよろしくお願い致します。

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