こんにちは!今日の記事は、カロリーゼロ飲料は太るのか?という話題です。
最近では、カロリーゼロ飲料により逆に太る等という話がネット上を中心に話題になっています。 実際のところはどうなのでしょうか。
科学的根拠を交えながら考えたいと思います。
カロリーゼロ飲料は、なぜ太ると言われるのか
まず最初に、カロリーゼロ飲料により、なぜ太ると言われるのかを見て行きましょう。
ネットで検索してみると、次のような理由が挙げられます。
1,人工甘味料により食欲が増加する
2,脳を混乱させ、インスリンが大量に分泌させる
3,カロリーオフ飲料を飲む人は、飲まない人に比べて太るという研究結果がある
などなど。では、 1つずつ考えてみましょう。
1,人工甘味料により食欲が増加する
まず一つ目は、人工甘味料により食欲が増加するという話です。
ネット上だと、根拠が全く示されないようなページしかないため、どれぐらい増加するのか、何と比べて増加すると言っているのか、全くわかりませんが・・・。
論文検索サイトで探してみましたが、良さそうな論文も見つかりませんでした。
まあ確かに、血糖が上がらないため満腹感をや満足感を得られにくいと考えられます。そのため、砂糖の入っている飲料に比べれば、なにかおやつでも食べたいという欲求が出る可能性はあります。
また、研究によっては、血糖が少し下がるという話もあるので、それによって食欲増進効果が現れる場合もあるかも。
2,脳を混乱させ、インスリンが大量に分泌され太る
次に言われているのは、インスリンが大量に分泌されるという話です。これはちょっと言い過ぎだと思いますが・・・。
インスリンというのは、膵臓から分泌されるホルモンで、血糖を下げる効果を持ちます。どうなるとインスリンが分泌されるかというと、血糖が上がると分泌されます。
京都大学 糖尿病・内分泌・栄養内科に良い図が紹介されています。
つまり、基本的には脳とは関係ない部分での仕組みで分泌されているため、人工甘味料により多量にインスリンが分泌されるとは考えられません。
一部の研究では、微量のインスリンが分泌される結果が出たものもありますが、多量ということはまずないでしょう。
仮に、糖を摂取していないにもかかわらず、インスリンが多量に分泌されるようなら、 カロリーオフ飲料を飲んだ後速やかに、低血糖で倒れることとなります。
3,カロリーゼロ飲料を飲む人は、飲まない人に比べて太るという研究結果がある
上記の二つは、メカニズムによってああなるこうなるという話でした。 ただ、こちらの記事でも書いたように、メカニズムがどうなっているかというのはあまり重要ではありません。
実際に人が飲んでみてどのような結果が現れるかが重要です。
さて、そんなわけで、研究結果があるというのは一番説得力があるように思えますが、ここで注意しなくてはいけない事があります。
それは、疫学で”因果の逆転”と呼ばれるものです。これはどういうものでしょうか。まずは、wikipediaに記載されている例を紹介します。
「火災現場に出動する消防士が多いほど、火災の規模は大きい。したがって、出動する消防士が多くなることが、火災が大きくなる原因だ。」
消防士の人数と、火災規模には強い相関関係がありますが、上記のような捉え方は間違っています。 実際には、火災が大きいから多数の消防士がそこに送り込まれているのであり、因果関係は逆といえます。
次に、路上で1000人程度に体重とカロリーオフ飲料のアンケート調査を実施するとしましょう。 すると恐らく、「カロリーゼロ飲料の摂取が多い人ほど、肥満傾向にある」という結果が得られることと思います。
そこから、「カロリーゼロ飲料の摂取が、肥満の原因だ」と予測するのは正しいでしょうか。
答えはNoで、カロリーゼロ飲料の摂取量と肥満には相関関係があるが、カロリーゼロ飲料が原因で肥満になるのか、肥満の人がカロリーゼロ飲料を飲む傾向にあるのかはわかりません。
他にも、因果の逆転が考えられる例というのは色々あります。
「食塩摂取量が少ない人ほど、血圧が高い」
→血圧が高い人ほど、減塩を意識する
「コレステロールの摂取量が少ない人ほど、脂質異常症が多い」
→脂質異常症の人ほど、コレステロールの摂取量を意識する
「牛乳摂取量の多い人ほど、骨粗鬆症が多い」
→骨粗鬆症と診断された人が、骨折予防のために牛乳を飲む
「糖尿病治療薬を服用している人ほど、糖尿病が多い」
→あたりまえ
たしかに、”カロリーゼロ飲料を飲む人に肥満が多い”という調査結果は得られているかもしれませんが、 だからといってカロリーゼロ飲料が肥満の原因とはいえないのです。
正しく評価するためには、非肥満者を対象としたコホート研究や、介入研究が必要です。
研究ではどうなっているのか
さて、では介入試験やコホート研究の結果はどうなっているのでしょうか。医中誌にて検索をかけてみました。
<人工甘味料と血糖についての研究>
人口甘味料と血糖については、計測しやすいこともあり比較的多くの研究があります。
研究1 糖尿病型および境界型の高血糖症例への「パルスイート」カロリーゼロ負荷が血糖値に及ぼす影響
「低カロリー甘味料「パルスイート」カロリーゼロを糖尿病型および境界型の高血糖症例に摂取させた場合の血糖およびインスリンへの影響を、
同等の甘みをもつブドウ糖を摂取させた場合と比較した。
合併症が観察されない糖尿病型および境界型の高血糖症例を対象とした。
「パルスイート」カロリーゼロは血糖値を上昇させず,
甘味成分によって惹起されるcephalic phase insulin分泌の促進による軽度の血糖低下作用が示唆された。
したがって「パルスイート」カロリーゼロは糖尿病患者の食事療法においてエネルギーコントロールに役立ち、
血糖コントロールに有用な甘味料であることが示唆された。」
研究2 アスパルテーム負荷の血糖,血中インシュリンおよびグルカゴンに及ぼす影響 ブドウ糖負荷との比較
「甘さでブドウ糖100 gに匹敵するアスパルテーム500 mgを正常7名、
未治療糖尿病22名に経口負荷し、同一対象でのブドウ糖100 g負荷の結果と比較した。
血糖はアスパルテーム負荷により正常、糖尿病ともわずかながらむしろ低下、その低下度は正常,糖尿病の重症順に大となった。
血中インシュリン、グルカゴン濃度は、アスパルテーム負荷により有意変動はなかった。
以上の成績と前回の成績を総合し、APはヒトで通常の使用量では血糖を上昇せず、かつ膵ホルモン分泌にも影響しない甘味料と考える。」
研究3 糖尿痛患者における甘昧料「ラカントS」の血糖値、インスリン値に及ぼす影響
「糖尿病患者の食事指導では血糖値を上昇させやすいショ糖を多く含む食品の摂取を控えることが推奨されているが、
指導上難しい症例もあり、砂糖代替甘昧料の利用が有用である場合がある。
そこで糖尿病患者における砂糖代替甘味料ラカントSの血糖値に対する影響を検討するため、
糖尿病患者12例を対象に、ラカントS25gを含むゼリー(試験食)とショ糖25gを 含むゼリー(対照食)を負荷し、
負荷後120分まで30分毎に採血を行う両試験をクロスオーバー法で実施した。
その結果、血糖値およびインスリン値は対照食負荷後120分まで有意に上昇したのに対し、
試験食負荷後では変化を認めなかった。
以上より、ラカントSは 糖尿病患者の血糖管理に悪影響をきたさず、
食事管理における砂糖代替甘味料として有効である可能性が示唆された。」
上記の結果を見ると、血糖を上昇させない、むしろ場合によっては下がる事もあるようです。そのため、糖尿病の方への血糖を上昇させない工夫としては、有用である可能性があります。
この中で興味深いのは、血糖を僅かながら下げるという報告で、血糖を下げるならば食欲を増進させる可能性もあります。
<人工甘味料と肥満についての研究>人工甘味料と肥満についての研究を同様に調べてみましたが、該当する研究はありませんでした。
しかし、同じように人工甘味料と血糖、肥満の論文を探した総説がありましたので、紹介致します。
人工甘味料と糖代謝 -2000年以降の臨床研究から- 考察より
「食品中の人工甘味料は、具体的な組成や含有量が把握できないために、特定の人工甘味料(物質ごと)の摂取状況を知ることは困難である。
したがって、「アスパルテーム」や「スクラロース」などの物質単位で検討された観察研究はなく、
多くの報告ではそれらが含まれた「人工甘味料入り飲料(ASB)」の引用習慣と疾病への影響が議論されている。
ASBの飲用量の増加は、肥満のリスクを高くすることがFowler et al.の大規模疫学研究によって示された。
この研究では食習慣については考慮されておらず、その影響が残っている可能性があるが、ASBと体重増加や肥満との関連を検討した初めての研究として興味深い。
いくつかのコホート研究によって、ASBは2型糖尿病の発症と関与することが報告されている。
しかし、BMIを交絡因子として考慮するとその関連が消失したことから、この結果には肥満や体重増加が関与することが示唆される。
また、他の研究者らは、ASBまたはダイエットソーダの習慣的な飲用が、MetS(メタボリックシンドローム)の発症リスクを増加させることを明らかにした。
ただし、これらの研究では体重の影響を調整しておらず、MetSの発症リスクを高めた要因がBMIから独立した影響であるかは明確ではない。
以上のことから、ASBの習慣的な飲用は、体重増加や代謝異常をきたし、MetS、延いては2型糖尿病発症へ関与すること、さらには血糖コントロールに影響することが示唆された。
一方、人工甘味料は血糖値やインスリン濃度を直接的に上昇させる可能性は極めて低いと考えられる。
Brown et al.の報告によるとアセスルファムKとスクラロースを含むダイエットソーダがグルコース負荷後のGLP-1分泌をさらに上昇させたことから、
これらの人工甘味料は食後の糖代謝を改善させる可能性が考えられた。
また、人工甘味料をショ糖の代替食品として用いることは、エネルギー摂取量の低下に伴って肥満や糖代謝異常のリスクを低減する可能性がある。
人工甘味料への代替はショ糖由来の炭水化物量を減少させることに繋がるが、米国糖尿病学会は、
減量につながる低炭水化物食の効果として、この結果を支持している。
ASBは腎機能にも影響することが考えられるが、現在これらの関係を検討した研究は二編と少なく、
Lin&Curhan et al.はASBの飲用習慣が推算糸球体濾過量の低下に影響すると報告し、
Shoham et al.は腎機能との関連がないとしている。
現在までの報告は、欧米人を対象としたものであり、日本人を対象とした研究が見られなかった。
また、観察研究の限界として、ASBの飲用習慣は質問票の回答からのみ検討されているため、
観察期間中の飲用状況の変化は評価できていないこと、ASBは様々な材料から成る飲料であり、
必ずしも人工甘味料自体の影響として評価できないことがある。
また、人工甘味料の摂取が食欲や衝動的な摂食を増加させる可能性が報告されている。
ASBの習慣的な飲用による体重増加や代謝異常などの結果は、人工甘味料そのものの影響ではなく、
摂取に伴う食行動の変化が反映されたとも考えられる。」
人工甘味料と肥満については、国内の質の良い研究はまだないようで、国外のものがいくつかあるのみとなっています。
国外の大規模コホート研究では、人工甘味料入り飲料の飲用は、体重増加に関与することが示唆されているようです。
コホート研究とは例えば、10人のダイエット飲料を飲まない群と、
ダイエット飲料を飲む群の、現時点で肥満でない人を追跡した結果、
将来的にダイエット飲料を飲む群が肥満になる可能性が高かった、といったもの。
先ほど因果の逆転というものを紹介しましたが、コホート研究では結果が現れていない群を追跡するため、
因果の逆転は起こりません。
たしかに、ダイエット飲料を飲む群を追跡すると、肥満になる人が多いようです。
このような結果が現れる理由は推察でしかありませんが、私はこの研究の筆者と同じ考えで、
人工甘味料そのものが影響しているわけではなく、人工甘味料を摂取する人の食行動が関与していると考えています。
例えば、人工甘味料入り飲料を飲む人はもともと甘い物好きが多いだとか、上に書いたように食欲増加に繋がりやすいだとか。
上記解説でも、介入研究では、体重低下を示したとありますし。
介入研究のように、摂取エネルギー量などをしっかりコントロールした上で使用すれば、
体重低下に良い可能性もあります。
また、今回の研究は全て国外のものであり、
日本とは食事情がずいぶんと違うためそのまま日本人に当てはまるわけではありません。
外国では、飲む量も間食の量も桁違いだったりしますので・・・。
■まとめ
今まで色々書いてきましたが、結果をまとめると、
1,人工甘味料は、血糖コントロールには有用と考えられる
2,介入研究では、体重低下を示す研究がいくつかある
3,コホート研究では、体重増加やメタボリックシンドロームのリスク増加を示す研究が多い
上記の結果から、しっかりとエネルギーや食行動を管理した上で人工甘味料を用いる場合、
通常の甘味料よりも減量に使えるかもしれません。(砂糖を人工甘味料に代替する等)
しかし、空腹感や満足感を得にくい事から、
何も考えずに多用すると間食の増加や食事量の増加を招く可能性もあり、注意が必要です。
上記の結果は、国外のコホート研究や介入研究の結果であり、
今後国内の良い介入研究の結果などが出れば、どうなるかはわかりません。
今後のさらなる研究が待たれます。