こんにちは!今日の更新は科学的根拠についてです。
近年では、根拠に基づいた医療(EBM)が重要視されており、 栄養学でも同様に、科学的根拠に基づいたものが重要視されています。
さて、そこでいう根拠とは、何を指すのか?という話です。
テレビで取り上げられた?専門家が言っていた?体験談が多い?動物実験で結果が出た?
色々とあるのですが、何が根拠になり、何が根拠にならないのかを知っておく事が重要です。
科学的根拠とはどういうことか
科学という言葉に惑わされるかもしれませんが、科学的根拠とは、疫学的・統計的な事実を指します。
疫学というのは馴染みの無い言葉かもしれませんが、 集団を対象とした、病気や怪我とその因子などを調査・研究する学問です。
疫学調査には統計学を使うので、同じような意味として捉えても良いかもしれません。
例えば、「対象者100人をランダムに、治療薬投与群とプラセボ薬投与群に振り分け、経過を観察する」といった具合です。
科学というと、例えば「がん細胞を取り出し、そのがん細胞に直接薬を使用し効果があるか無いかを見る」 といったようなイメージをするかもしれませんが、その場合は根拠としてはやや弱くなります。
それで効果が現れれば、人間にも効くかもしれないという参考にはなりますが、 本当に人間に効くはどうかはあくまで別問題であり、 人間に対する効果は疫学的な研究が行われないとわかりません。
メカニズムが分かることは科学的根拠ではない
メディア上にある、情報の間違いの中で非常に多いのが、 メカニズム(物事が起こる仕組み)が分かった事を、科学的根拠のように取り扱う事です。
一時期流行ったサバ缶ダイエットでは、GLP-1という物質に、インスリン分泌促進効果と、食欲抑制効果があるとされ、 ダイエットに効果があるとされました。
GLP-1の持つ、インスリン分泌促進効果と食欲抑制効果は、動物実験等で簡単にわかる事ですが、 実際にサバ缶を食べた人が痩せるのか?というのは疫学研究でないと全くわかりません。
食欲抑制効果に、ダイエットになるほどの効果があるのか? インスリンを分泌させれば、血糖が下がればむしろ食欲が増加するのでは?
などなど、人間の体に入った途端、何が起こるかわからなくなってしまうのです。
つまり、メカニズムがわかっていることは科学的根拠とはいえないのです。
このメカニズムがわかっていることを利用した文章のトリックは、栄養学の方面で非常によく使われます。
・食欲抑制効果があるので痩せる
→人間において、痩せるほど食欲を抑制するのか不明。
必要な量も不明(調べてみると、摂取不可能な量でやっと効果が現れることも)
・抗酸化作用により抗ガン作用がある
→抗癌作用として効果を発揮できる量が不明。抗癌作用が確かにあっても、無視できるほどの小さな確率の変化かもしれない
・酵素を摂取する事により、脂肪の燃焼やエネルギーの代謝がよくなり痩せる
→どんな種類の酵素で、量で、どれぐらいの脂肪が燃焼されるか不明、
胃の塩酸やたんぱく質消化酵素により失活する可能性も十分考えられる
などなど、挙げればキリがありません。
もちろん、「副作用も少なさそうだし効果があればラッキー」という認識で使う分には構わないのですが・・・。
情報元が書いていない文章は危険
こちらの本に非常に良い例が書かれています。
「現在のように糖尿病が増加した原因として、動物性脂肪・油脂類・砂糖や果物の摂取量が増加し、穀類、豆類、芋類などが減少したことなどが考えられる」
このような文章が、ネット上や、新聞などにサラっと書かれていたらどう思うでしょうか。
大半の人が、なるほど、と思うのではないかと思います。
しかしよく調べてみると、実は砂糖の消費量は増加していなかったり、果物の摂取量も低下していたりします。
こういった文章が書かれてしまう理由は想像することしかできませんが、
糖尿病の原因は、糖と名前がつくように砂糖が大きな原因に違いない
↓
糖類には砂糖や果糖がある
↓
果糖は主に果物に含まれている
↓
砂糖や果糖の摂取量が増えているのだろう
こういった予測から、事実確認を怠って文章を作ってしまったのだと考えられます。
このようにそれっぽく書かれている文章でも実は間違っている事もあります。
情報元については書かれていないことも多いため、様々な情報に対し、本当かこれ?という目を向ける必要があります。
メディアでは、定説より新説が紹介される
メディアの性質として、新しい情報に飛びつきやすいというものがあります。
例えば、牛乳が骨を弱くする!などというのは良い例でしょう。
牛乳が骨量の増加に貢献するというのは、多くの研究で支持されています。
例えばこちらの統計的文献レビューでは、
「カルシウム摂取量と骨密度との関連について述べている研究は多く見られた。牛乳飲用が骨密度を高めるという報告が多く見られた。
具体的には、牛乳を一日一本以上飲む群(382名)のBAR(超音波減衰係数)は、 ほとんど飲まない群(172名)のBARより有意に高値を示した(<0.05)との報告がある。
また、チーズ摂取が骨量を高めるなど、乳製品摂取の効果についての報告が多かった。
小児期から思春期にかけて、牛乳は1日1本以上飲むことは、骨密度を高める効果があることが示唆された。」
と記載されています。
栄養士学会や骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインでも、牛乳が骨粗鬆症予防に推奨されています。
さて、以上のように、牛乳が骨に良さそうだというのは定説となっていたのですが、 それをメディアが改めて紹介しても面白くありません。
そこで、牛乳が骨に悪そうだという研究やら発表やらを見つけ、 「新説!今まで飲んでいた牛乳は、実は骨に悪かった! 」
というようなタイトルをつけ、人の目を引こうとします。
実際に、非常に刺激的で読みたくなるタイトルになっています。
このように、メディアというのは今までの定説や研究の積み重ねを無視し、 新しい説や反論に飛びつくような性質があります。
そして、牛乳が悪いという話がたくさん広まれば、手のひらを返し、 「牛乳が骨に悪いというのはウソ?!本当は骨に良かった」
と言ってみたり。
今までの積み重なってきた論文が新しい研究により覆されることはもちろんありますが、 簡単なことではありません。
ちなみに、上記の牛乳が骨に悪いとされる理由をネット上で見るとまさしく、 メカニズムを根拠として取り扱っている、良い例です。
牛乳が骨に悪いという理由は色々噂されています。
例えばリンやマグネシウムのバランスが悪く、カルシウムの排泄を促すだとか、 牛乳は人体に合わないためカルシウムもほとんど吸収できないだとか様々です。
メカニズムとして、そういう一因はあるかもしれませんが、他の食事とも一緒に摂取する中、食事全体としてリンやマグネシウムのバランスがどうなるかはわかりません。
カルシウムがほとんど吸収できないという話も、摂取したカルシウムと尿中・便中のカルシウム量を測定すればわかりますが、 吸収できないという報告は見当たりません。
吸収率が高いという報告はありますが。
情報には懐疑的な目を
今まで書いたように、栄養学に関する情報というのは、非常に誤解を生みやすいものです。
特に、自身の健康に関する物である事から、懐疑的な目で見ることが重要だと考えられます。
テレビでダイエット情報が発信されていれば、それが疫学研究により証明されているものなのか?
価値のある研究を元に話しているのか?などを疑問に思うようにします。
すると恐らく、大半のネット上・メディア上の栄養情報は、大した根拠もなく書かれていることがわかると思います。
じゃあ何を信じればいいのかという話ですが、厚生労働省の報告結果や、各種学会の発表やガイドラインが指標になります。
また、国立健康・栄養研究所でも、様々な健康食品に関する論文の検討や報告を行っているので、参考になると思います。
疫学の知識があれば、自ら論文などを検索し検討する事もできますが、やや敷居が高いかもしれません。
ここまで疫学研究が重要と書いてきましたが、疫学研究にも色々あります。
次のページで、その色々ある疫学研究について書こうと思います。
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