こんにちは!今日の更新は、メディアに騙されない栄養学の考え方についてです。
今は情報化社会とも呼ばれていて、食と健康に関する情報があふれている時代です。
良い情報にもアクセスできる一方で、間違いやウソ、言い過ぎといった悪い情報も多いという問題があります。
ということで、あふれる食と健康の情報を取捨選択できるよう、科学的根拠に基づく栄養学の考え方を書いていこうと思います。
科学的根拠とは?
そもそも科学的根拠とはどういうものか?という話です。
科学的根拠とは、人を対象とした臨床研究の結果です。
"人を対象とした"というのはとても大事です。動物実験や、細胞実験はメカニズムの解明や基礎研究として重要なものですが、そこで得られた結果をそのまま人に当てはめるのは誤りです。
食品の効果の宣伝でこれがよく問題になります。動物実験や細胞実験の結果をもとに、効果の宣伝の根拠として使われることがあります。「紅茶はインフルエンザを99.9%感染力を失わせる、だから紅茶はインフルエンザ予防に良い」などと言う感じですね。
また、一定の法則性をもつ、統計的な事実であるというのも重要なポイントです。
メカニズムや理論だけで効果を謳うのも誤りです。メカニズムももちろん考慮しますが、メカニズム的にはこうなるはずなのに・・・、でも研究してみるとそうはならない、ということはよくあります。
どういうものが科学的根拠なのか?
ではどういうものが科学的根拠と呼べるのか。
科学的根拠には、根拠としての信頼度レベルがあります。上の表で下に位置する研究よりも上の研究のほうが根拠としての信頼度が高く、また実施する難易度も高くなります
詳しく、どんな研究をするのか紹介していきます。まずは、一番下にある横断研究から。
横断研究とは?
横断研究とは、原因と結果を同時に調べるような研究です。
上記の画像では、例えば、肥満症の原因が運動不足だとして研究をするとします。肥満について調べ、さらにその人達の運動習慣を調べる・・・、こういったものを横断研究と言います。
安くて簡単に実施できるというメリットがありますが、もしこれで関連性があったとしても、どちらが原因でどちらが結果なのかはっきりしないという弱点があります。
運動をしないから肥満なのか、肥満だから運動をしないのか?どちらなのか、よくわかりません。
症例対照研究とは?
次に症例対照研究について。症例対照研究とは、結果を調べ、過去を振り返るような研究です。なので後ろ向き研究とも言われます。こちらも例は肥満症と運動にしています。
この研究も実施しやすいですが、過去のことをどれだけ正確に思い出せるか不明という弱点があります。思い出しかたに偏りがあると、結果にもずれが生じてしまいます。そういったずれを、思い出しバイアスとも呼びます。
コホート研究とは?
次にコホート研究です。原因と思われるほうを調べ追跡していき、将来の結果を比較する研究です。
肥満と運動の例でいうと、原因と考えられる運動習慣のほうをまず調査します。
そして、運動習慣があるグループとないグループに分け追跡、将来どれぐらい肥満になったかを比較します。
これは優れた手法で研究としての信頼性も高いのですが、時間も研究費用もかかります。10年など長い期間追跡することもあり、簡単に実施できる研究ではありません。
ランダム化比較試験(RCT)
次に、ランダム化比較試験、RCTと呼ばれるものです。
先程紹介していた例は、観察するだけの観察研究と呼ばれるものです。こちらの研究は、研究者の手が加わるため、介入研究とも呼ばれます。
まず集団を介入する群と介入しない群に分けます。画像の例では、カテキン入り緑茶を飲む群と、対照としてただの緑茶を飲む群としています。
これを一定期間飲んでもらって、体脂肪の変化を調べ差を比較する、こういった研究をランダム化比較試験と言います。
今まで紹介した中でもっとも信頼性が高い研究です。が、これも手間やお金がたくさんかかります。
メタアナリシス・システマティックレビュー
最後にメタアナリシスとシステマティックレビューについて。この2つは正確には違うものですが、同じようなものと思っていてもらって支障ないと思います。
どんな研究かというと、まず世界中に様々な研究論文があります。これを検索論文サイト(PubMedなど)を用いてランダム化比較試験やコホート研究などの質の良い研究を抜き出していきます。それらを統合して、結果をみるという研究です。
質の高い研究をとりまとめたもので、最もエビデンスレベルが高いとされています。が、これは研究の積み重ねがなければ実施できず、新しく出た成分などの検証はこの方法では行なえません。
メディアでよく起こってしまうこと
今まで研究手法を挙げてきましたが、同じようなテーマを選んでいても、違う結果が出てしまうことがどうしてもあります。
選んだ集団だったり、測定方法が少し違ったり、なんらかの偶然の要素が入ったりと、そういった理由で起こりえます。
なので、疫学研究では一つの研究だけで結論を出さず、同じような研究をまとめて結論を導き出すようにしています。
ここで一つ重大な問題があります。
例えば牛乳が骨に良いという論文が100、骨に悪い論文が1あったとします。このまま読み取れば、牛乳は骨に良いんだあろうなと思いますが、この骨に悪いとする少数の論文を取り上げることで、「"牛乳が骨を強くする"というのはウソだった!」という話を作ることができます。
これはメディアでよく起きていることです。牛乳が骨に良いなんて誰でも知っているような内容は、書いても誰の興味も引きませんが、実は悪かったという話なら世間の目を引けそうです。
「○○という研究がある」「○○という報告があった」このような根拠は、番組構成や記事構成に沿った研究を都合よく抜き出しているだけかもしれません。
偏り(バイアス)について
間違った結果が出るという話をしたので、バイアスについても軽く紹介しておこうと思います。
研究をしていると、さまざまな要因で結果が偏ってしまうことがあります。それをバイアスと呼びます。
こういった偏りを可能な限り排除しているのが良い研究で、排除できていないものはいまいちな研究です。
出版バイアス
まずバイアスの例の一つめ、出版バイアスです。
例えば飲料会社でこんな会議があったとします。トクホ飲料を目指し研究をしましょう、と。
しかし研究をしてみたら結果が出なかった、測定方法や期間を少し変えれば結果が出るかもしれない、などともう一回試してみます。
次はさいわいにして効果がでました、これでめでたくトクホ申請ができるぞ、というような流れ
実はこの流れで、効果が出なかったという研究が一つ消えてしまっています。
否定的な研究は、肯定的な研究よりも公表されにくい、こういうのを出版バイアスと呼びます。
交絡バイアス
あともう一つだけ、交絡バイアスも紹介しておきます。
例えば、飲酒によりリスクを増加させる癌を調べたいとします。
また、お酒を飲む人は喫煙率が高かった、とします。すると、見かけ上飲酒の多い人は肺がんのリスクが上がることになってしまいます。
このように、別々の因子に関連性があると、見かけ上関連してしまう現象を交絡バイアスと呼びます。
メディアでよく見る栄養と健康について
ここまで結構難しい話ですが、何を言いたかったのかというと、まず、「○○という効果がある」というのは実はとても難しいことだということです。
研究も大変だし、研究があっても間違っているかもしれない、研究の抜き出し方をかえるだけで簡単に違うことが言えます。
このように難しいためか、とくに根拠なく効果を謳っているものがとても多いです。さらに、根拠がないまま拡散され、いつの間にか一般常識みたいになっている例もあります。
じゃあ何を信じればいいのか?という話ですが、基本的に食品の効果は薬のように強力ではありません。食品に薬のような効果を期待しないほうが良いと思います。
サプリメントのように成分が濃縮されているものは、モノによっては何かしらの健康効果を得られるかもしれません。しかし薬と違って、有害作用についての研究はほとんどされず販売されます。なのでサプリメントによる健康被害というのも多数報告されています。効果があるのか特になんの検討もされていない商品も多く、サプリメントの使い方には注意が必要でしょう。
栄養と健康で一番大事なのは、食習慣です。"食べる量を減らしていく"、"減塩を意識していく"など習慣になったものが健康に変化をもたらします。
「この食品を食べれば健康になるかも?」「この成分を摂れば健康だ!」というように特定の食品や成分にとらわれず、長い目で自分の食習慣と向き合うのが健康の秘訣です。
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