こんにちは!今日の更新は、生のサバとサバ缶の違いについてです。
先日twitter上で、友人からこんな質問が寄せられました。
魚の缶詰は普通の魚と比べてどうなのか?という話です。
魚の品質の劣化を考えるとき、脂質の酸化というのが大きな問題になります。
魚の脂質といえば、サバ等の青魚に含まれるEPAやDHAが代表です。ということで、脂質の量の多いサバに焦点をあてて解説していこうと思います。
結構長くなってしまうので、お急ぎの方に向けて結論は先に述べておきます。
「生のサバと比べてもサバ缶の栄養は悪くない。保存状態によってはサバ缶のほうが良い。」
【目次】
1 魚の栄養とは?
2 脂質の酸化とは?
3 缶詰は脂質酸化しにくい
4 生のサバとサバ缶の栄養価の違い
5 結論
1,魚の栄養とは?
魚に含まれる栄養素はたんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル等があります。
魚の栄養を考える場合、このうち脂質は特に重要です。なぜなら、脂肪酸のEPAやDHAが含まれているからです。
脂肪酸ってなんだ?と思う方もいるかもしれないので、少し本題とずれますが、脂質についても軽く解説します。
脂質には体によい脂質、あまりよくない脂質があります。
脂質はグリセリンという物質に3つの脂肪酸という物質が結合した形で構成されています。この脂肪酸にはいろいろな種類があり、体の中での働きも違い、良い働きをする脂肪酸があれば、あまり良くない働きをする脂肪酸もあります。
脂肪酸は大きくわけると飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられます。飽和脂肪酸は肉や乳製品に多く含まれ、摂りすぎると体に悪いとされる脂肪酸です。
不飽和脂肪酸はさらに、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分けられ、多価不飽和脂肪酸はさらにn-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸に分けられます。
そして、n-3系脂肪酸のなかに、皆さんご存知のEPAやDHAという脂肪酸があります。EPAやDHAの健康効果については有名だし書くと長くなってしまうので今回は書きません。
つまり、魚の栄養でなにが大事かというと、「摂りすぎると体に悪い飽和脂肪酸が少なく、体に良いEPAやDHAといった脂肪酸が多い」ということです。
近年食の欧米化がすすみ、肉類の消費がかなり増えました。魚は調理に手間がかかり、骨があったり臭みがあったりして苦手な人も多いでしょう。
そうやって食事が肉や乳製品に偏ると、脂質の内訳が飽和脂肪酸に偏っていきます。これは健康上よくありません。
少し難しい話だったので、まとめます。
魚に期待される役割は、第一は良質なたんぱく源であるということ。そしてそれだけでなく、たんぱく源を肉に偏らせず、それにより脂肪酸の偏りを減らし、健康を保つというのが大事な役割です。
上記をみると、飽和脂肪酸がとても悪いモノのように見えるかもしれません。しかし、飽和脂肪酸は少なすぎても脳卒中のリスク増の報告があります。
栄養学は難しいもので、一言に体に良い、悪いと表現できないものばかりです。飽和脂肪酸はあくまで、摂りすぎると悪いモノであり、全く摂らないほうが良いというわけではありませんので、ご留意ください。
なお上記の記載は、厚生労働省が報告している日本人の食事摂取基準2015年版 に基づき記載しています。
もととなる研究論文もそこからきているので、詳細が気になる方は、そちらを確認してください。
2,脂質の酸化とは?
さて、少しずつ本題へもどっていきます。生のサバとサバ缶の栄養の違いについてでした。
サバの品質を管理する際に大事なことはなにか。まず1に、青魚は足がはやいと言われる通り、腐りやすいということ。流通段階では冷凍して腐らないようにするか、冷凍しないなら水揚げしすぐ食べなければいけません。
つぎに考慮しなければいけないのが、脂質の酸化です。冷凍することで腐敗は防ぐことができますが、脂質の酸化は防げません。
サバは先ほど話した通り、多価不飽和脂肪酸のEPAやDHAが豊富です。健康に良い脂肪酸ですが、多価不飽和脂肪酸は酸化されやすいという特徴もあります。
脂質は酸化すると変質してしまい、栄養にならないばかりか、体に害となります。なので、できる限り食べる際に脂質が酸化していないのが望ましいです。
すぐ食べるなら脂質の酸化はあまり問題になりません。しかし、長期保存となると話は別で、影響を受けやすくなります。
つまり、冷凍や缶詰など長期保存をする際に、脂質の酸化についてケアしなければならないということです。
3,缶詰は脂質酸化しにくい
缶詰は空気をできる限り抜いてから密封します。密封されれば、その後空気が入り込むことはありません。
酸化には酸素が必要なので、理論的には缶詰は普通に流通させるより脂質は酸化しづらいはずです。
しかし長期保存されれば、抜ききれなかった残った酸素と反応していくらかは酸化してしまうのでは?という疑問が残ります。
これについては検討している論文が少なく、少し古めのものしか見つかりませんでした。
市販油脂含有食品の脂質の変敗度 原節子 古賀由里 戸谷洋一郎 日本栄養・食糧学会誌 Vol.41 No.3 219~225(1988)
こちらはまぐろの缶詰ですが、12の試料で、脂質の酸化が基準値を超えたものは1つだけ、という結果でした。
11の試料の酸化はほとんど進んでいなかったので、きちんと管理されていれば大丈夫なようです。基準値を超えていた試料は、缶詰になる前のまぐろの管理が良くなかったのではないかと思います。
基準値超えあるのか…、というなんとも微妙な気持ちですが、なにしろ30年前の論文です。食品加工技術も30年もあれば大きく進歩しているので、現代ならおそらく問題ないでしょう。
4,生のサバとサバ缶の栄養価の違い
長期保存をすると脂質の酸化が心配でしたが、適切に管理された缶詰なら酸化の心配はなさそうです。
次に、実際の栄養価の違いを見てみます。
栄養価は、日本では文部科学省が調査しており、日本食品成分表として報告しています。
こちらの中には、サバと、缶詰のサバの栄養価の報告がありますので、比較してみましょう。
まさばの生・水煮・焼きと、さば缶詰の水煮・みそ煮・味付けの比較を行いました。(100gあたり)
まずはEPAやDHAの数値を見てみます。これを見ると、意外にも生のサバが一番低い数値になっています。
このことからネット上では、缶詰にすると栄養価が高まると書かれていることがありますが、EPAやDHAが缶詰にすることにより増えているということはありません。
これはたんに、原材料のサバの栄養価の違いと思われます。もともとサバは、摂れた時期や個体によって脂ののり具合がかなり違います。
食品成分表の検体は流通しているものを使っているので、個体差でこれぐらいの差は出ます。
また、EPAやDHA以外にも、鉄や亜鉛、ビタミンB2などの栄養価はサバ缶のほうが高くなっています。
一般的に、同じ重量で栄養価を測定すると、生より加熱したもののほうが高くなります。加熱により食材から水分が抜け、成分が濃縮されるからです。
全体的に見て、栄養価はばらつきがありますが、ほとんど個体差によるものと思われます。
生のまさばと缶詰で明らかに違うのは、カルシウム、ビタミンB1、食塩です。
カルシウムは生より明らかに缶詰のほうが高くなっています。
魚の缶詰は高圧高温で加熱するため骨まで柔らかくなり、普通なら食べない骨まで食べられるようになっています。そのため、カルシウムは生の魚より缶詰のほうが摂りやすくなります。
ビタミンB1は、生のサバや水煮、焼きに比べて缶詰が明らかに低くなっています。ビタミンB1は熱に弱いので、高温処理された際に壊れてしまうのでしょう。
また、生に比べて缶詰の食塩は高めになっています。
とはいえ、100gで1g前後ならそこまで高いわけでもなく、普通に調理してもそれぐらいはいくのであまり問題無いでしょう。
以上をまとめると、栄養価は缶詰だからといって劣るというわけではなさそうです。減っている栄養素(ビタミンB1など)もありますが、カルシウムは缶詰のほうが摂りやすいし一長一短です。
5,結論
サバは脂質が酸化しやすい魚であるため、長期保存となるとその点が心配でした。
しかし、適切に管理されていれば缶詰はほとんど酸化しません。普通に流通していても脂質は酸化していくので、管理が悪ければ、むしろ缶詰の開けたてのほうが脂質の酸化割合も少なさそうです。
栄養価も一部減っている栄養素はありますが、カルシウムは缶詰のほうが高く、一長一短です。
ということで結論です。
「生のサバと比べてもサバ缶の栄養は悪くない。保存状態によってはサバ缶のほうが良い。」
今回はサバに焦点をあてましたが、他の魚にも通じる考え方です。
鮭缶や秋刀魚缶でも栄養価は落ちるということはないと考えられます。
魚の調理の手間が気になる方は、缶詰も活用すると良いでしょう。
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