こんにちは!今日の更新は、水を2リットル飲むのは健康に良いのか?というテーマです。
先日twitterで水2リットル飲むのはどうなのかという質問を頂きました。
たしかに水をよく飲むのが体に良いというような健康法は広く浸透しています。
ということでこの内容について調べていきたいと思います。
また、今回の記事ではどのように調べているか?調べる時にどんなことに注意して見ているのか?というような過程についても記載していきたいと思います。
今回の記事の目的は大きく分けて2つあります。
一つは、テーマである、水2リットルと健康についての疑問を解決させること。
もう一つは、このテーマを通してネット上の栄養情報の読み解き方を学ぶということです。そのために、調べている過程の割合が大きくなっています。
長くなりますが、ぜひ最後まで読んでいただければとおもいます。
【目次】
1 ネット上での反応を見る
1.1 うさんくさいサイトの見分け方
1.1.1 科学的ではないワードを連発
1.1.2 そもそも間違っている
2 疑問を解決するためには?
2.1 公的機関の情報を調べてみる
2.1.1 日本人の食事摂取基準を調べてみる
2.1.2 ガイドラインや他のページを調べてみる
2.2 論文を調べてみる
2.2.1 論文の調べ方
3 調べてみた結果をまとめると?
4 まとめ
ネット上での反応を見る
まず記事を書く時に最初にすることは、ネット検索です。
日本ではgoogle検索がメジャーです。このgoogle検索のアルゴリズムは、検索した人が知りたい事をピンポイントで返すように作られています。
ということは、検索であがってきた情報を片っ端から読めば、そのワードに対して、日本の人たちがどのような答えを求めているのか?を知ることができます。
今回検索してみたのは、「水 2リットル」こちらの検索ワードや「水 2リットル 健康」「水 たくさん」「水 どれぐらい」といったワードです。
これらのワードで検索し、出てきたサイトを片っ端から読んでいきます。
そして、出てきた内容を羅列していくとこんな感じになります。
代謝がアップする
リンパの流れが改善する
デトックス効果がある
ダイエット効果がある
血管がきれいになる
免疫力が上がる
ふむふむ、なるほど。これらの上位サイトを見ると、水をたくさん飲むというのはとても健康に良さそうに思えます。
さて、こういった検索は、日常の疑問に対してよく行われると思います。
そしてこの検索結果を見た反応は、大きく分けて二通りあると思います。
「へぇ~、どうも水をたくさん飲むのは健康に良さそうだ」
「いやいや、良いことばかり書いてあるけどホントかよ?」
このブログの読者さんはどちらでしょうか。
私は管理栄養士ということもあり、穿った見方ばかりしているので後者のように思います。
うさんくさいサイトの見分け方
穿った見方をするという話ですが、こういうページはうさんくさいという具体例もあります。
ちょっと話がそれますが、いくつか紹介します。
科学的ではないワードを連発
科学的ではないワードとは、科学的に定義されていないものや、含んでいる意味が広すぎて扱いの難しいものを言います。
たとえば、デトックス・免疫力・代謝などのワードがあります。栄養ではよく見かけるワードだと思います。
デトックスというのは科学的に定義されている言葉ではありません。
免疫力や代謝というワードは、包括的な表現であり、具体的にどうなのかという話に発展させると非常に難しい分野です。
たとえば、免疫力というワード。
免疫力が上がると書いているページの運営者は、水をどれぐらいの期間、どれぐらい飲めば、何の感染症のリスクを何%低減できるのか?という具体的事項については回答できないはずです。
こういった表現が多用されているページは、信頼できないと感じます。
そもそも間違っている
また、そもそも記載が間違っているページもあり、そういったサイトも信頼できません。
「水 2リットル」で調べた中でいえば、このような記載です。
「一日に失う水の量は2.5リットル。水分の消費量と摂取量は合わせる必要があり、水分はおよそ2.5L必要になる。なので水を2.5リットルは飲まなければならない」
水分が2.5L必要というところまでは合っていたのですが、水を2.5L飲まなければならないという記載が間違っています。
必要な水分量の内訳は、飲水量だけでなく食事に含まれる水分(約1L)や体で作られる水(約0.3L)も合算しなければいけません。
なので上記の例でいえば、飲み水としては1.2Lが正しいです。
これはあくまで一例ですが、このようにそもそも間違った記述がネット上ではあちこちで見受けられます。こういったページは栄養学にくわしくない人が書いているんだろうなと感じます。
専門知識がないと見破るのはむずかしいですが、自信満々に書かれている記事でも内容としては普通に間違っていることはよくある、ということは覚えておいていただきたいです。(当ブログでもあるかも)
疑問を解決するためには?
すこし話題がそれてしまいました。
このサイトうさんくさいなあ…、そう思ったとしたら、今度はうさんくさくない、正しい情報を得たいと思うはずです。
しかし、これが大変むずかしいです。
本当なのかどうかを確認するためには、疫学研究が必要です。
十分な疫学研究がされていなければそもそも「わからない」し、研究されていたとしても、探すのも大変だし読み解くのも専門的な知識が必要になります。
この疑問を解決するのは結構たいへんなのですが、ちゃんと調べていきたいと思います。
普通にgoogle検索しただけでは、上記のようなうさんくさいサイトばかり出てきてあまり参考になりません。
そこで、信頼できるサイトや、もう少し科学的な情報に絞って検索をしていきます。
公的機関の情報を調べてみる
専門的な知識がなくてもできる、一番の方法は、国や病院などの公的機関が発信している情報を探すことです。
国や病院などの公的機関は、それなりに責任をもって情報を発信しているため、あまり適当なことは書きません。
どこの誰が書いたかわからない情報よりは、よっぽど信頼できます。
厚生労働省のページを見てみる
ということで、実際に厚生労働省のページから検索してみます。
厚生労働省は栄養に関するページなども作っており、探しているテーマが引っかかる事があります。
今回は、「水 2リットル 厚生労働省」という単語で検索してみました。すると、このようなページがでてきました。
厚生労働省の行っている、水を飲みましょうという運動のページです。
具体的には、日本人はあとコップ2杯飲めば、一日に必要な水の量を確保できるとしています。
これらのページをよく読んでいくと、脱水により熱中症や脳梗塞、心筋梗塞などのリスクが上がると記載されています。
ふむふむ、どうやら水をしっかり飲むのは大事なようです。
しかし、調べ始めた「水 2リットル」というテーマからするとややそれた話です。
これらの推進運動は、あくまで「脱水」が体に悪いから水をよく飲む必要があるという話です。
日本人の水分摂取量は少し不足しているので、みんなもう少し水を飲みましょう、という話はよくわかるし、ポピュレーションアプローチとして大事なのもわかります。
しかし、「脱水」していない人がそれ以上飲むことで健康効果はあるのか?という話でなく、当初の疑問を解決するにはもう少し調べていく必要がありそうです。
日本人の食事摂取基準を調べてみる
次に、日本人の食事摂取基準を調べてみます。
日本人の食事摂取基準とは、日本人が栄養をどれぐらい摂ったらいいのか?というのをとりまとめた報告書です。こちらは、厚生労働省が出しています。
主要な栄養素しか記載されていませんが、水に関しては記載があります。見ていきましょう。こちらのページです。
むずかしい言葉で書かれていますが、いくつか大事なところを抜き出してみます。(難しい言葉は置きかえています)
- 水の必要量はあまり運動をしない人たちで2.3L~2.5L
- よく運動をする人たちで3.3L~3.5L
- しかし必要量を作成するための根拠は十分に整っていない
- 海外の研究は、食習慣の違い(パンよりご飯は水分が多い、みそ汁を飲むなど)から日本人には適応しづらい。
- 日本人を対象とした信頼度の高い研究は極めて乏しい。
- 汗は気温の影響を受け、気候の違う地域の報告は日本に適応できない。
- 十分な量の水の習慣的摂取が健康維持に好ましいとする考えは広く存在するが、その科学的根拠は必ずしも明確ではない。
- 腎結石・尿管結石の発症予防や再発予防、慢性腎臓病の発症予防及び重症化予防に関していくつか報告が存在する。
- 便秘についてもいくつかの研究があるが、結果は一致していない。
日本人の食事摂取基準としては、水についても必要量を策定したいが日本人の研究が少なく策定できなかった、という感じです。
また、「十分な量の水の習慣的摂取が健康維持に好ましいとする考えは広く存在するが、その科学的根拠は必ずしも明確ではない。」この一文は、まさしく今回調べていたテーマに合致する内容です。
ガイドラインや他ページを調べてみる
後に続く文章に、結石や腎臓病などの一部の疾病に対する予防として、いくつか報告があると記載されています。
実際に尿路結石症診療ガイドラインをみてみると、このような記載があります。
水分摂取は再発予防に対して有効である。再発予防には一日尿量2000ml以上になるように水分を摂取することが必要であり、そのため食事以外に一日2000ml以上の飲水を指導する。
十分な量の水を飲むことで、一部の病気の予防や再発防止ができるようです。やっと2リットルという数字が出てきました。
これ以外にも、食事摂取基準の2020年版の議事録や、国立健康・栄養研究所のページも調べてみましたが、違う報告は見つかりませんでした。
ここまで調べた結果をまとめると、水の必要量は日本人の研究が少なくよくわからない。水をたくさん飲むことは、特定の疾患の予防や再発防止には役立つかもしれない、という感じです。
まだちょっと、最初の質問とはずれている気がしますね。もう少し探してみます。
論文を調べてみる
次は論文を直接調べてみます。
このあたりから、専門知識がないと厳しくなると思います。というか、私も厳しいです。
とくに厳しいのが、英語能力です。日本語の論文は読めますが、英語の論文はとてもじゃないけど読めません。
しかし日本の論文だけで探すより、やはり世界の論文を調べるほうが多くの情報が集まります。
最近は、googleの翻訳機能がとても良くなり、論文もいい感じに翻訳してくれるようになりました。ということで、googleの翻訳機能も使用しつつ探していきます。
論文の調べ方
論文の探し方はいくつかあります。いくつか紹介します。
Google Scholar(グーグル・スカラー)
あまり知られていないと思いますが、googleの検索サービスの一つに、学術用途に特化した検索があります。
こちらの検索をすると、ネット上に散らばっている論文や学術誌、出版物などをまとめて表示します。
日本語で検索すれば日本語の論文がヒットするし、英語で検索すれば英語の論文が出てきます。
ただし、目的の論文にたどり着くには検索にコツがいります。
PubMed(パブメド)
おそらく世界で一番有名な学術文献の検索サイトがこちら。
数千万件の記事があり、無料で読める論文もかなりの数です。
英語がわかればこちらで検索するのが一番良いと思います。
さて、これらを用いてキーワードを変えながら色々検索していくと、わかったことがあります。
どうやら、水2リットル飲むという健康法は、日本だけではなくアメリカでもあるようです。
というか、そもそもアメリカから渡ってきた健康法なのかもしれません。
どんな健康法かというと、1日にグラス8杯の水を飲むというもの。8オンス×8杯で8×8という名称なようです。
オンスとは日本では聞き慣れない単位ですが、8オンスのグラス8杯で1893mlとのこと。2リットルではないですが、健康法としてはかなり似ています。
そこで、この8×8の健康法について調べていくと、まさにこれを調べていた!という内容の論文が見つかりました。それがこちらです。
"Drink at least eight glasses of water a day." Really? Is there scientific evidence for "8 x 8"?
(一日8杯以上の水を飲む、8×8の科学的根拠は?)
pubmedでヒットした記事です。この記事は無料で全文読むことができます。
英語が苦手でも、google翻訳でだいたいのイメージはつかめると思います。
この論文中の大事なところを抜き出すと、こんな感じです。
- 一部の疾患の予防等に有効かもしれないが、研究には問題もあり根拠としては不足している状態である。
- 水中毒や、そこまでいかなくとも低ナトリウム血症を引き起こす可能性がある。
- 水質により、汚染物質の暴露の恐れもある。
- それだけの水を飲むと排尿回数が増え、生活の質を落とす。ボトル入りの水を買う場合コストもかかる。
- 1日8杯以上の水を飲む必要があると結論付けられるような科学的な報告は見つからなかった
一部疾病に対して効果はあるかもしれないが、水をたくさん飲むデメリットも存在し、すべての人を対象に推奨するほどの根拠はない、というような内容でした。
先ほどの、日本人の食事摂取基準と大きく違わない見解ですね。
調べてみた結果をまとめると?
これまでに一般のサイトや公的機関のページ、論文等を調べてきました。
これらをすべてまとめると、このような感じになります。
- 一般に、水2リットルを飲むことが健康に良いと言われることがある。
- 一部の疾病の予防や再発防止に役立つことは事実。
- 一方で頻尿などたくさん飲むデメリットも存在する。なので、健康なすべての人が実践するべき健康法とは言い難い。
- それとは別に、脱水は明確に体に悪影響を及ぼす。日本人の水分摂取量はやや不足しており、現在の飲水量にプラスでコップ2杯程度は飲んだほうがいい。(一日の飲水で1.2Lぐらい)
水2リットルがどうなのかという疑問に対し、それなりに解答になっていると思います。
別に2Lも飲まなくてもいいけど、脱水にはならないように、という感じですね。
まあこの脱水にならないように、というのも難しい話なんですけどね。
上では目安として飲水1.2Lと書きましたが、利尿作用のあるカフェイン入りの飲料(お茶なコーヒー等)を飲んで尿量が多ければ、1.2Lじゃ足りないかもしれません。また、暑い夏の時期、発汗が多ければ必要な量も増えます。
とにかく、脱水予防のためには喉の乾きを感じたら飲むというのが大事です。
高齢者は喉の乾きを感じにくくなるため、それでも足りないかもしれませんが、だいたいの成人の方なら喉が乾くたびに水分補給をしていればおそらく健康上は問題ないと思われます。
なお、この話はあくまで健康な方を対象にした話です。
心臓病や腎臓病など、水分制限が必要な病気もあるので、そういった疾患をお持ちの方は病院からの指導を優先して下さい。
まとめ
冒頭でも書きましたが、今回の記事は大きく2つの目的がありました。
まず1は、水2リットルと健康の疑問を解消させること。
次に、このテーマを通して栄養の情報の読み解き方を学ぶことです。
目的1の、疑問はだいたい解消されたでしょうか。
2つ目のテーマはなかなか難しいと思いますが、栄養情報の強者となるべく、科学的根拠にもとづく考え方をしていって頂ければと思います。
Google Scholar初めて知りました。
返信削除信頼できる情報を有り難う御座います。