こんにちは!今回の記事は、「前後即因果の誤謬」という言葉についてです。
いきなり難しい言葉を書き出してどうした、という感じですが、日常生活を送る上ですごく大事な意味を持っています。
考え方の誤りを表現している言葉ですが、これを悪用した広告や商品等がすごくたくさんあります。
賢く生活を送るためにも、知っておいてほしい言葉です。
前後即因果の誤謬
「前後即因果の誤謬(ぜんごそくいんがのごびゅう)」とは、前後で起きた事に因果関係を結んでしまう考え方の誤解のことを言います。
わかりにくいですね。具体例を出してみます。
「おみくじで凶が出た後に悪いことが起きた。つまり、おみくじで凶が出ると、悪いことが起こるんだ。」
はい、これだけの話です。
科学的に考えると、おみくじで凶が出る事と、悪いことの発生には、因果関係はないでしょう。
にも関わらず、因果関係を結んでしまう…、そういう考え方を、「前後即因果の誤謬」と言います。
もう少し例を出してみましょう。
「畑が豊作になるようにお祈りをしたら、豊作になった。つまり、祈れば豊作になるということだ。」
縁起や験担ぎを否定したいわけではないですが、実際には因果関係はありません。
ここまでは問題ないと思います。
しかし、これが日常に落とし込まれると、途端に誤解を生み出します。
「ワクチンを打った後に1000人の人が亡くなった。ワクチンを打つと死ぬことがある」
「ダイエットサプリを飲んだら痩せました。このダイエットサプリは痩せます。」
「紅茶を毎日飲んだら、今シーズンはインフルエンザにかからなかった。紅茶には、インフルエンザの予防効果がある」
どうでしょう。これらは実際に見かける表現ですが、これが「前後即因果の誤謬」です。前後に起きた事を、関連付けてしまっています。
特に一番上記のワクチンの話については、最近話題の新型コロナ関連の話です。
残念なことに、実際にニュース等でこのような表現をしている事があります。
上記の例でいうと、ワクチンを打った後に1000人の人が亡くなったが、ワクチンを打ってなくてもそれぐらいの人数が亡くなっていたかもしれない、ということです。
実際に、高齢者に優先して打っているわけですから、ワクチンを打った後に寿命を迎える方もいるわけです。
ワクチンを打った後に亡くなったからといって、ワクチンが原因であると断定することはできません。この因果関係を解明するのは、実際には結構難しいです。
次のダイエットサプリの例も、商品広告やステマ等でよく見かける表現です。
例えば芸能人が紹介していたとして、ダイエットサプリを飲んだ後に痩せた、というのは事実だったとします。
しかし飲んでなくても痩せたかもしれません。ダイエットサプリを飲んで、気合が入って運動や食事制限を頑張っちゃったのかもしれません。
このような感じで、特に健康に関わる面について「前後即因果の誤謬」がよく発生します。
疫学研究者ではこのような考え方の間違いはまずありえませんが、疫学知識が無いような記者だったり、ライターだったりすると、このような思考の間違いをしてしまう事があります。
悪用もできる
また、間違いに気づいていても、あえてすることもあります。
例えば、実際には効果のないダイエットサプリを売り出すとします。
因果関係が証明できるような、きちんとした研究を行うと、ダイエットにならない事がばれてしまいます。
そこで「前後即因果の誤謬」の出番です。
適当な人数をピックアップして、サプリを飲んでもらいます。ダイエットをしたいのですから、運動をして食事制限もしてもらいましょう。
サプリを飲んだ後に(運動や食事制限の効果で)痩せたので、広告ページに「30人にサプリを飲んでもらったところ、体重が一ヶ月で平均3kg減少した」と表記します。
ついでに、体験談も載せちゃいます。
「ウソだと思ってサプリを飲んだら、本当に1ヶ月で5kg減少しました」
運動や食事制限を併用していた事実は、都合が悪いので書かないでおきます。
体験談は、「効かないじゃないか!」というお怒りのメールも届いていますが、好評だったメールだけをピックアップして載せます。
広告ページに"痩せる","ダイエット効果がある"等と記載すると、景品表示法に引っかかるので、上記の内容だけを記載します。
これで、よくあるダイエットページ完成です。
疫学を知っている方からすれば、「効果を保証するような事は何も書かれていない」と一瞬で判断つきますが、普通の方は、巧みな悪徳広告に騙されてしまいます。
知ってか知らずか、いろいろなところにこの間違いは溢れています。
謎の健康法なんかも、このパターンが多いです。
例えばデトックスとか。
「デトックスを行う事で、毒素を排出し、体の臓器を害から守る事ができる。実際に私もデトックスを行ったら、今までよりも健康になった」
デトックスを行ったことと、今までより健康になったという実感を持ったことは、なんの関連もないかもしれません。
このように、よくわからない理論を出して、その理論の補強として「前後即因果の誤謬」を使うこともあります。
間違いに間違いを上塗っているだけで、もうメチャクチャなのですが、これが日常ではよく見かける光景です…。食品と健康の分野では特に。
関連があることもある
前後関係があるからといって、因果関係を結んでしまうのは間違いですが、かといって因果関係が無いと断定するのも誤りです。
実際に因果関係がある事もあります。
例えばこういう例。
「朝牛乳を飲むとお腹を下す。つまり、牛乳がお腹を下す原因だ。」
牛乳は乳糖という成分が含まれていますが、乳糖を分解する能力が低いと下痢になることがあります。
つまり、上記は前後で発生した事象に実際に因果関係があります。
このように、実際に因果関係があることもあります。
どうやって因果関係を確認する?
前後関係だけでは、因果関係を証明することはできません。
ではどうやって因果関係を確認するのでしょうか。
いくつか研究手法がありますが、中でも一番質が高いとされる、ランダム化比較試験について紹介しましょう。
例えば上記のダイエットサプリの例を考えてみます。
ダイエットサプリの効果を検証したくて、ランダム化比較試験を行うとすると、以下のように行います。
対象となる集団(年齢層や性別等を設定)をランダムに2つの群に分けます。
片方の群には確認したいダイエットサプリを、もう片方の群には全く同じ見た目をした、空の薬を飲んでもらいます。
一定期間観察し、両方の群の体重の減少の差を比較します。
こんな感じの手法をランダム化比較試験と言います。
医薬品等、健康に大きく関わるようなものは、必ずこういった試験が行われています。ワクチンも同様です。
しかし、こういうちゃんとした試験は時間もかかりますからお金がかかります。
しかも、お金をかけて研究したのに差が出ないという事も度々あります。
なので、健康食品の会社は、あえてこういう研究をせずに、「前後即因果の誤謬」を悪用して広告を作るのです。
前後即因果の誤謬は、言葉自体は難しいのですが、概念としてはそうわかりにくいものでは無いと思います。
しかし現実にはあふれている表現です。悪意がないこともあるし、悪意をもって活用されていることもあります。
世間を賢く生きるために、物事の本質を見誤らないようにしましょう。
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